この記事では、個人事業主が利用できる「消費税の2年間免除特例」について徹底解説します。
開業したばかりの個人事業主は原則として開業初年度と2年目は消費税が免除されることが多いですが、その条件や仕組みを正確に理解することが重要です。
売上1,000万円の基準値や特定期間の考え方、免税事業者のメリット、そして適切な申請手続きまで、消費税に関する基礎知識から実務的なポイントまで網羅しています。
この記事を読めば、あなたのビジネスに最適な消費税の取り扱いが明確になり、無駄な納税や手続きミスを防ぐことができます。
個人事業主の消費税課税の基本知識
個人事業主として事業を営む際に、避けて通れないのが税金の問題です。
特に消費税については、売上規模や事業年数によって課税されるかどうかが変わるため、正しい知識を持っておくことが重要です。
この章では、消費税の基本から個人事業主がどのように関わるのかを詳しく解説します。
消費税とは何か
消費税は、商品やサービスの消費に対して課される間接税で、最終的に消費者が負担する税金です。
事業者は消費者から預かった消費税を国に納める義務があります。
現在の消費税率は、標準税率が10%(国税7.8%、地方税2.2%)、軽減税率が8%(国税6.24%、地方税1.76%)となっています。
軽減税率は飲食料品(酒類と外食を除く)や定期購読の新聞に適用されます。
区分 | 税率 | 内訳 | 対象品目例 |
---|---|---|---|
標準税率 | 10% | 国税7.8%、地方税2.2% | 一般的な商品・サービス |
軽減税率 | 8% | 国税6.24%、地方税1.76% | 飲食料品(酒類・外食を除く)、定期購読の新聞 |
個人事業主と消費税の関係
個人事業主は、事業規模に応じて消費税の「課税事業者」または「免税事業者」に分類されます。
この区分によって、消費税の納税義務が発生するかどうかが決まります。
課税事業者は消費税を預かり、確定申告時に納税する義務があります。
一方、免税事業者は消費税の納税義務が免除されています。
しかし、免税事業者であっても、取引先に対して消費税分を上乗せして請求することは可能です(その場合、預かった消費税は納める必要はなく、事業者の利益となります)。
個人事業主が課税事業者となるかどうかは、原則として「2年前の課税売上高」が基準となります。
これにより、開業初年度と2年目は特例として消費税が免除されるケースが多いのです。
売上高による課税事業者と免税事業者の区分
個人事業主が課税事業者になるか免税事業者になるかは、主に以下の基準で判断されます:
- 基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円を超える → 課税事業者
- 基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円以下 → 免税事業者
例えば、2023年に個人事業主として事業を行う場合、2021年(前々年=基準期間)の課税売上高が判断基準となります。
事業者区分 | 基準期間の課税売上高 | 消費税の納税義務 |
---|---|---|
課税事業者 | 1,000万円超 | あり |
免税事業者 | 1,000万円以下 | なし |
ただし、「特定期間(前年の1月1日から6月30日までの期間)」の課税売上高が1,000万円を超える場合は、基準期間の売上高が1,000万円以下であっても課税事業者となるため注意が必要です。
課税売上高に含まれるもの
課税売上高を計算する際に含まれるのは、課税取引の対価の額(税抜)です。
具体的には以下のようなものが含まれます:
- 商品・製品の販売代金
- サービス提供の対価
- 不動産の譲渡・貸付代金
- その他課税対象となる取引の対価
一方、非課税取引や不課税取引の売上は課税売上高に含まれません。
例えば、医療費や学費、公的保険料などは非課税取引として課税売上高から除外されます。
個人事業主が適切に税務処理を行うためには、自分の事業が課税事業者に該当するのか、免税事業者に該当するのかをしっかりと把握しておく必要があります。
特に創業間もない事業者は、2年間の免除特例がある点を理解し、計画的な事業運営を心がけましょう。
個人事業主が消費税を2年間免除される特例制度の概要

個人事業主にとって、消費税の納税義務は大きな負担となりますが、実は開業初期に適用される「消費税免除の特例制度」が存在します。
この制度をうまく活用することで、最長2年間にわたり消費税の納税義務から解放されることが可能です。
消費税の免除特例とは
消費税の免除特例とは、個人事業主の事業開始から一定期間、消費税の納税義務が免除される制度のことです。
正式には「事業者免税点制度」と呼ばれ、中小・零細事業者の税務負担を軽減することを目的としています。
この制度は消費税法第9条に規定されており、前々年または前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者に対して適用されます。
したがって、開業したばかりの個人事業主は前々年の売上がないため、原則として開業初年度と2年目は消費税の納税が免除されるのです。
期間 | 消費税の課税状況 | 判断基準 |
---|---|---|
開業初年度 | 免税事業者 | 前々年の課税売上高がない |
開業2年目 | 免税事業者 | 開業年の前々年の課税売上高がない |
開業3年目以降 | 課税売上高による | 前々年の課税売上高が1,000万円を超えるか否か |
2年間免除が適用される条件
消費税が2年間免除されるためには、以下の条件を満たす必要があります:
- 新規に事業を開始した個人事業主であること
- 事業開始から2年以内であること
- 特定期間(前年1月1日から6月30日までの期間)の課税売上高が1,000万円を超えていないこと
- 高額特定資産(税抜1,000万円以上の資産)を取得していないこと
- 課税事業者選択届出書を提出していないこと
特に注意すべき点として、開業2年目でも「特定期間(前年上半期)の課税売上高が1,000万円を超えた場合」は、その翌年(開業3年目)から課税事業者となります。
例えば、2023年に開業した場合、2024年の上半期(1月〜6月)の売上が1,000万円を超えると、2025年からは消費税の納税義務が発生します。
免税事業者になるメリット
免税事業者になることで得られる主なメリットは以下の通りです:
経理処理の簡素化
課税事業者の場合、売上に対する消費税と仕入れに対する消費税を区分して記帳する必要がありますが、免税事業者はこの区分が不要です。
帳簿の記入や確定申告の手続きが簡略化され、事務負担が軽減されます。
キャッシュフローの改善
免税事業者は消費税を納税する必要がないため、その分の資金を事業の成長や運転資金に充てることができます。
特に創業初期の資金繰りが厳しい時期には大きなメリットとなります。
価格競争力の向上
免税事業者は、課税事業者が納めなければならない消費税分のコストがかからないため、同じ利益率でも若干安い価格設定が可能になる場合があります。
これにより、価格競争力が向上することがあります。
項目 | 免税事業者 | 課税事業者 |
---|---|---|
消費税の納税 | 不要 | 必要 |
消費税の区分経理 | 不要 | 必要 |
消費税の仕入税額控除 | 不可 | 可能 |
事務手続きの負担 | 少ない | 多い |
ただし、消費税の免除を受けるということは、仕入れにかかった消費税を控除できないということも意味します。
設備投資が多い業種や、取引先がすべて課税事業者である場合など、状況によっては自ら課税事業者を選択した方が有利なケースもあるため、自身の事業内容に応じた判断が必要です。
この2年間の免除期間を有効活用することで、事業の基盤を固め、将来的な消費税納税に備えた準備をすることができます。
開業間もない個人事業主は、この特例制度の適用条件を十分に理解し、事業計画に組み込むことをお勧めします。
1,000万円の基準による消費税免除の仕組み

個人事業主にとって、消費税の納税義務が発生するかどうかは事業運営に大きな影響を与えます。
消費税の課税事業者となるか免税事業者となるかは、基本的に「1,000万円」という基準値によって決定されます。
この章では、この基準がどのように適用され、どのような仕組みで2年間の免除につながるのかを詳しく解説します。
課税売上高の計算方法
消費税の納税義務を判断する際の「課税売上高」とは、消費税が課税される取引の合計金額のことです。
この計算方法を正確に理解することが、消費税の免除を適切に受けるための第一歩となります。
課税売上高には以下のものが含まれます:
- 商品・製品の販売収入
- サービス提供による収入
- 不動産の譲渡・貸付による収入
- その他課税対象となる取引からの収入
一方、以下のものは課税売上高に含まれません:
- 非課税取引(医療費、学費、住宅の賃貸料など)からの収入
- 国外取引による収入
- 固定資産の売却収入(事業用として使用していた場合は含まれる)
区分 | 課税売上高への算入 | 具体例 |
---|---|---|
課税取引 | 含める | 商品販売、サービス提供、課税資産の貸付 |
非課税取引 | 含めない | 医療、教育、住宅賃貸 |
不課税取引 | 含めない | 国外取引、給与、利子 |
課税売上高を計算する際は、消費税額を含まない本体価格(税抜金額)で計算します。
例えば、税込110万円の売上があった場合、課税売上高としては100万円とカウントします。
2年前の売上が基準になる理由
消費税の納税義務を判断する際に、なぜ「2年前」の売上が基準になるのでしょうか。
これには、事業者の事務負担の軽減と税務行政の効率化という2つの重要な理由があります。
消費税制度では、「基準期間」(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで、当年の納税義務が決まります。
つまり、2023年の納税義務は2021年の売上によって決定されるのです。
2年前の売上を基準にする主なメリット
- 事業計画の立てやすさ:事前に納税義務の有無が分かるため、価格設定や資金計画を立てやすくなる
- 事務負担の軽減:申告・納税の準備期間が十分に確保できる
- 税務行政の効率化:確定した売上に基づいて判断できるため、課税の公平性が保たれる
例えば、2021年(基準期間)の課税売上高が1,200万円の個人事業主は、2023年には消費税の課税事業者となります。
逆に、2021年の売上が950万円であれば、2023年は免税事業者となります。
この「2年前」という基準によって、個人事業主は事前に自分の納税義務を知ることができ、適切な価格設定や税務計画を立てることが可能になります。
免税事業者から課税事業者になるタイミング
個人事業主が免税事業者から課税事業者へと変わるタイミングを正確に把握することは、税務計画において極めて重要です。基本的な流れは以下のとおりです:
基準期間の売上による判定
個人事業主の場合、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後に自動的に課税事業者になります。
例えば:
- 2022年の売上が1,100万円 → 2024年から課税事業者になる
- 2023年の売上が1,200万円 → 2025年から課税事業者になる
特定期間による判定
基準期間の売上が1,000万円以下でも、「特定期間」(前年の1月1日から6月30日までの期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、翌年は課税事業者になります。
特定期間の売上による判定は、事業規模が急速に拡大している事業者に対する特例措置で、納税義務の適正化を図る目的があります。
例えば:
- 基準期間(2021年)の売上:800万円
- 特定期間(2022年1月〜6月)の売上:1,100万円
- 2023年は課税事業者になる
年 | 基準期間の売上 | 特定期間の売上 | 納税義務 |
---|---|---|---|
2023年 | 2021年:950万円 | 2022年1〜6月:900万円 | 免税事業者 |
2024年 | 2022年:1,100万円 | 2023年1〜6月:800万円 | 課税事業者(基準期間超過) |
2025年 | 2023年:950万円 | 2024年1〜6月:1,200万円 | 課税事業者(特定期間超過) |
課税事業者になった後の注意点
課税事業者になると、以下の対応が必要になります:
- 取引先や顧客に対する消費税の請求方法の検討
- 適切な帳簿の作成と保存(区分記載請求書等保存方式、インボイス制度への対応)
- 消費税の納税資金の準備
- 消費税の確定申告と納税(原則として翌年3月31日まで)
課税事業者になるタイミングを事前に把握し、適切な準備を行うことで、税務上のリスクを最小限に抑え、スムーズな事業運営を継続することができます。
特に売上が1,000万円前後で推移している事業者は、常に自身の課税状況を確認しておくことが重要です。
開業初年度の個人事業主の消費税免除について

個人事業主として開業したばかりの方にとって、消費税の取り扱いは特に重要な関心事です。
開業初年度には消費税に関する特別な扱いがあり、多くの場合2年間は消費税の納税義務が免除されます。
ここでは、開業初年度から2年目にかけての消費税の扱いについて詳しく解説します。
開業初年度は原則消費税が免除される理由
消費税の課税事業者となるかどうかは、原則として「2年前の課税売上高が1,000万円を超えるかどうか」で判断されます。
開業初年度の場合、2年前の実績がないため、自動的に免税事業者となります。
これは新規事業者の負担を軽減し、事業の立ち上げを支援するための制度設計となっています。
つまり、開業初年度は課税売上高に関わらず、原則として消費税の納税義務が免除されるのです。
事業年度 | 判定基準 | 課税区分 |
---|---|---|
開業初年度 | 2年前の実績なし | 原則免税事業者 |
ただし、この原則には例外もあります。高額特定資産(税抜1,000万円以上の建物や車両など)を取得した場合や、設立1年目の法人で資本金が1,000万円以上の場合などは、開業初年度でも課税事業者となることがあります。
開業2年目の消費税の取り扱い
開業2年目も通常は免税事業者となります。
これは、開業2年目の課税判定は「1年前の課税売上高」ではなく、「2年前の課税売上高」で判断されるためです。
開業2年目の時点では、まだ2年前の事業実績がないため、原則として引き続き免税事業者となります。
事業年度 | 判定基準 | 課税区分 |
---|---|---|
開業初年度 | 2年前の実績なし | 原則免税事業者 |
開業2年目 | 2年前の実績なし | 原則免税事業者 |
開業3年目 | 開業初年度の課税売上高 | 初年度売上で判断 |
このように、個人事業主は開業から最大2年間は消費税の納税義務が免除される仕組みになっています。
これにより、事業の安定化を図る時間的猶予を得ることができます。
特定期間(前年上半期)の売上と消費税
ただし、開業2年目であっても「特定期間」の課税売上高によっては、その年の途中から課税事業者になる可能性があります。
特定期間とは、前年の1月1日から6月30日までの6ヶ月間を指します。
この特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合、たとえ2年前の課税売上高が1,000万円以下または実績がなくても、その年は課税事業者となります。
判定項目 | 基準値 | 判定結果 |
---|---|---|
特定期間の課税売上高 | 1,000万円超 | 課税事業者になる |
特定期間の課税売上高 | 1,000万円以下 | 免税事業者のまま |
例えば、2023年に開業し、2024年(2年目)の特定期間(2023年1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えた場合、2024年は課税事業者となります。
給与総額による判定
特定期間における判定は、課税売上高だけでなく「給与総額」でも行われます。
特定期間の給与支払総額が1,000万円を超える場合も、その年は課税事業者となります。
ただし、個人事業主の場合、専従者給与は「給与支払総額」に含まれません。
これは、個人事業主が家族に支払う専従者給与は、給与総額による課税事業者判定の対象外となるためです。
1年目から課税事業者を選択する方法
事業の性質上、初年度から仕入税額控除を受けたい場合などは、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、開業初年度から課税事業者となることを選択できます。
この選択は特に、開業時に多額の設備投資を行う場合や、取引先がほとんど課税事業者で消費税の還付が見込める場合に検討する価値があります。
ただし、一度課税事業者を選択すると、原則として2年間は継続しなければならないため、慎重な判断が必要です。
開業初年度の消費税に関するよくある誤解
開業初年度は消費税の申告・納税が不要と理解している方も多いですが、厳密には「免税事業者」という扱いであり、消費税の「課税事業者」ではないということです。
この違いを理解することは重要です。
免税事業者は、売上に対して消費税を請求することはできますが、その消費税分を預かったものとして国に納める義務はありません。
ただし、取引先によっては、免税事業者であることを理由に取引条件で不利な扱いを受けることもあるため、事業計画時に考慮すべき点です。
消費税課税事業者選択届出書とは

消費税課税事業者選択届出書は、本来であれば免税事業者として消費税の納税義務がない事業者が、自ら課税事業者となることを選択するために税務署に提出する届出書です。
個人事業主が創業して最初の2年間は原則として免税事業者となりますが、取引先との関係や将来的な税負担を考慮して、あえて課税事業者になることを選択するケースがあります。
課税事業者を選択するメリットとデメリット
課税事業者を選択することには様々なメリットとデメリットがあります。
事業の状況や取引先との関係性によって、最適な選択は異なります。
課税事業者を選択するメリット
課税事業者になることの最大のメリットは、仕入れや経費にかかった消費税(仕入税額)を控除できることです。
特に以下のような場合にメリットがあります:
- 設備投資や仕入れが多く、仕入税額が売上にかかる消費税を上回る場合
- 取引先が大企業で、課税事業者であることが取引条件になっている場合
- 将来的に課税事業者になる予定で、早めに経理体制を整えたい場合
- 消費税の還付を受けられる可能性がある場合
課税事業者を選択するデメリット
一方で、課税事業者になることには以下のようなデメリットも存在します:
- 消費税の申告・納税事務が発生する
- 売上にかかる消費税が仕入税額を上回る場合は納税額が生じる
- 経理処理が複雑になり、記帳の負担が増える
- 一度課税事業者を選択すると、原則として2年間は継続する必要がある
項目 | 免税事業者の場合 | 課税事業者の場合 |
---|---|---|
消費税の納税 | 不要 | 必要(仕入税額控除あり) |
消費税の請求 | できない(価格に含める形となる) | 明示して請求できる |
経理事務 | 比較的簡易 | 区分経理が必要 |
大企業との取引 | 不利になることがある | 有利になることが多い |
課税事業者選択届出書の提出方法
課税事業者選択届出書は、所轄の税務署に直接提出するか、e-Taxを利用して電子的に提出することができます。
届出書は国税庁のウェブサイトからダウンロードすることができます。
届出書の記載内容
消費税課税事業者選択届出書には、以下の情報を記載する必要があります:
- 氏名または名称
- 住所または所在地
- 個人番号(マイナンバー)または法人番号
- 課税事業者となることを選択する課税期間
- 事業内容
- 連絡先電話番号
届出書の記入に不安がある場合は、税理士に相談するか、税務署の窓口で相談することをおすすめします。
特に創業初期の税務関係の手続きは、専門家のアドバイスを受けることで後々のトラブルを避けることができます。
e-Taxによる提出
e-Taxを利用した電子提出には、マイナンバーカードまたは税務署で取得した電子証明書が必要です。
e-Taxの利用には以下の手順を踏みます:
- e-Taxのウェブサイトから利用開始届出を提出
- 利用者識別番号を取得
- e-Tax用のソフトをダウンロードしてインストール
- 消費税課税事業者選択届出書の電子データを作成して送信
電子提出の場合、税務署に出向く必要がなく、24時間提出が可能なため、時間的な制約が少ないというメリットがあります。
提出期限と注意点
消費税課税事業者選択届出書には、適切な提出期限があり、これを守らなければ選択した課税期間から課税事業者となることができません。
提出期限
届出書の提出期限は、課税事業者になろうとする課税期間の初日の前日までです。
例えば、個人事業主の場合は暦年課税が原則なので、2023年1月1日から課税事業者になりたい場合は、2022年12月31日までに提出する必要があります。
提出が期限に間に合わない場合は、その年度は免税事業者のままとなり、翌年度以降に課税事業者となる手続きが必要になるため注意が必要です。
特定期間における留意点
特定期間(前年の1月1日から6月30日までの期間)における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌年は自動的に課税事業者となります。
この場合でも、あえて課税事業者選択届出書を提出しておくことで、税務上の取り扱いが明確になるというメリットがあります。
取りやめる場合の手続き
一度課税事業者を選択した場合、原則として2年間は課税事業者であり続ける必要があります。
2年経過後に免税事業者に戻りたい場合は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出します。
この届出書も、免税事業者になろうとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。
手続き | 提出書類 | 提出期限 |
---|---|---|
課税事業者になる | 消費税課税事業者選択届出書 | 課税事業者になる年の前日まで |
免税事業者に戻る | 消費税課税事業者選択不適用届出書 | 免税事業者に戻る年の前日まで(選択から2年経過後) |
課税事業者を選択するかどうかは、事業の現状と将来的な展望、取引先との関係性などを総合的に考慮して判断する必要があります。
特に創業初期の2年間は、経営の安定化に集中するために免税事業者のままでいるか、将来を見据えて早めに課税事業者になるかという選択を迫られます。
自身の事業計画に合わせて最適な選択をしましょう。
消費税の免除を受けるための申請手続き

個人事業主が消費税の免除を受けるためには、一定の手続きが必要です。
ここでは消費税免除のための具体的な申請方法や必要書類について解説します。
必要な書類と準備
消費税の免除を受ける際は、基本的に特別な申請書類は必要ありません。
消費税の課税売上高が1,000万円以下の場合、自動的に免税事業者となります。
ただし、いくつかの準備は必要です。
免税事業者であることを確認するために、以下の書類を整理しておくことをおすすめします:
- 過去2年分の確定申告書(控え)
- 帳簿書類(売上台帳など)
- 事業の概要がわかる資料
- 青色申告承認申請書(青色申告をしている場合)
また、開業初年度の場合は、開業届を適切に提出しておくことが重要です。
これにより、税務署であなたが新規開業の個人事業主であることが明確になります。
税務署への届出方法
消費税の免税事業者になるための特別な届出は基本的に不要です。
前々年または前年の課税売上高が1,000万円以下であれば、自動的に免税事業者となります。
ただし、以下のケースでは届出が必要になります。
免税事業者から課税事業者になる場合の届出
免税事業者であっても、課税事業者になることを選択できます。
その場合は「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出する必要があります。
書類名 | 提出期限 | 提出方法 |
---|---|---|
消費税課税事業者選択届出書 | 課税事業者となる課税期間の初日の前日まで | 税務署に直接持参または郵送 |
消費税課税事業者選択不適用届出書 | 適用をやめようとする課税期間の初日の前日まで | 税務署に直接持参または郵送 |
また、免税事業者が簡易課税制度を適用して課税事業者になる場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」も合わせて提出することができます。
特定期間における1,000万円超の売上があった場合
特定期間(前年の1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌年は課税事業者となります。
この場合、特別な届出は必要ありませんが、翌年の消費税の納税準備をしておく必要があります。
課税事業者になる場合は、消費税の記帳や納税のための準備を早めに始めることが重要です。
可能であれば、税理士に相談することも検討してください。
よくある質問と回答
消費税の免除を受けるための申請は必要ですか?
前々年の課税売上高が1,000万円以下であれば、自動的に免税事業者となります。
ただし、任意で課税事業者になりたい場合は「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。
開業初年度から課税事業者になることはできますか?
開業初年度から課税事業者になりたい場合は、開業日から1ヶ月以内に「消費税課税事業者選択届出書」を提出してください。
免税事業者になったあとの帳簿記録はどうすればよいですか?
将来的に課税事業者になる可能性を考慮し、消費税額を区分して記録しておくと安心です。
課税事業者を選択した場合、取り消すことはできますか?
課税事業者を選択した場合、原則として2年間は継続する必要があります。
2年経過後に取り消す場合は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出します。
免税事業者であっても、将来的に事業が拡大して課税事業者になる可能性を視野に入れた経理体制を整えておくことをおすすめします。
消費税の仕入税額控除を受けるためには、日頃からの適切な記録が必要となります。
電子申告での届出はできますか?
はい、e-Taxを利用して電子申告することができます。e-Taxを利用すると、24時間いつでも申請可能で、税務署に出向く手間が省けます。
消費税の免除に関する手続きは比較的シンプルですが、事業の状況によって適用される条件が異なる場合があります。
不明点がある場合は、最寄りの税務署または税理士に相談することをおすすめします。
消費税免除の特例が適用されないケース

個人事業主にとって消費税の免除は大きなメリットですが、すべてのケースで適用されるわけではありません。
ここでは、消費税免除の特例が適用されないケースについて詳しく解説します。
高額特定資産を取得した場合
免税事業者であっても、高額な資産を購入した場合には、その後一定期間は免税事業者になれない「高額特定資産の課税事業者となる特例」があります。
高額特定資産とは、一取引単位あたりの取得価額が税抜1,000万円以上の棚卸資産または資産を指します。
例えば、店舗、事務所、高額な機械設備などが該当します。
高額特定資産を取得した場合、たとえ売上が1,000万円以下であっても、その課税期間から3年間は必ず課税事業者となります。
これは、高額資産購入時の消費税を控除したあと、すぐに免税事業者に戻って消費税を納めないという租税回避を防止するための措置です。
対象となる資産 | 基準額 | 強制適用期間 |
---|---|---|
建物、機械装置など | 税抜1,000万円以上 | 取得した課税期間とその後2期間 |
棚卸資産 | 税抜1,000万円以上 | 取得した課税期間とその後2期間 |
課税売上割合が著しく低い場合
事業を行う中で、課税売上とともに非課税売上(輸出取引など)を持つ個人事業主は、課税売上割合が著しく低い場合に特別な規定が適用されます。
具体的には、課税売上割合が95%未満で、かつ課税期間中の課税仕入れ等の税額が500万円を超える場合、仕入税額控除に制限がかかります。
これは「個別対応方式」または「一括比例配分方式」と呼ばれる計算方法を用いる必要があります。
たとえ免税事業者の要件を満たしていても、この割合が著しく低い場合には、消費税の計算や申告が複雑になるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
納税義務の免除の特例を受けられない事業
いくつかの特定の事業形態や取引においては、原則として免税事業者になれない規定があります。
例えば、以下のような場合は消費税の免除特例を受けられません:
- 事業者免税点制度を適用できない新設法人(設立1期目と2期目は原則として課税事業者となります)
- 相続があった場合の相続人(被相続人が課税事業者だった場合)
- 合併があった場合の合併法人(被合併法人が課税事業者だった場合)
- 特定期間(前年の1月1日から6月30日まで)の課税売上高が1,000万円を超える場合
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者を選択した場合(2年間は取り下げできません)
特定事業者の判定
また、事業者と特殊な関係にある者(特定事業者)と合算した売上高が1,000万円を超える場合にも、免税事業者として認められないケースがあります。
特定事業者の例としては:
関係性 | 具体例 |
---|---|
特殊関係法人 | 同一人物が両方の法人の株式50%以上を保有している場合など |
特殊関係個人 | 親族や生計を一にする者が行う事業など |
資本関係 | 親会社・子会社の関係にある法人 |
簡易課税制度を選択した場合の注意点
簡易課税制度を選択している課税事業者が、売上が1,000万円以下になったとしても、簡易課税制度の適用をやめる届出をしない限り、自動的に免税事業者になることはできません。
簡易課税制度の取りやめには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要です。
このように、消費税の免除特例には様々な制限や例外があります。
個人事業主は自身のビジネス状況に応じて、これらの規定を理解し、適切な税務戦略を立てることが重要です。
不明点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
まとめ
個人事業主にとって、消費税の2年間免除制度は大きな支援となります。
この特例は、「1,000万円以下の課税売上高」という基準に基づき、開業初年度と2年目は原則として消費税が免除されます。
ただし、高額特定資産の取得や特定の業種では適用されないケースもあるため注意が必要です。
また、経営状況によっては課税事業者を選択した方が有利な場合もあります。
消費税の仕組みを正しく理解し、自分のビジネスに最適な選択をすることで、税負担の軽減と適切な経営判断につながるでしょう。
不明点があれば、最寄りの税務署や税理士に相談することをお勧めします。