会社設立時の自己資金不足でお悩みではありませんか。
現金がなくても、パソコンや車、不動産といった資産を資本金にできる「現物出資」は、有効な資金調達手段です。
本記事では、現物出資のメリット・デメリット、対象資産の種類、定款作成から登記申請までの具体的な手続きを分かりやすく解説します。
特に重要な「価額500万円の壁」や税務上の扱いなど、失敗しないための5つの注意点も詳しく説明。
この記事を読めば、現物出資の全体像と具体的な進め方が明確になり、スムーズな会社設立を実現できます。
そもそも資本金の現物出資とは?金銭出資との違い
会社の設立には、事業の元手となる「資本金」が必要です。
一般的には現金で払い込む「金銭出資」が主流ですが、実はそれ以外にも方法があります。
それが「現物出資」です。手元の現金が少ない場合でも、事業に必要な資産を活用して会社を設立できる便利な制度ですが、その仕組みや金銭出資との違いを正しく理解しておくことが重要です。
この章では、現物出資の基本について詳しく解説します。
現物出資の定義と仕組み
現物出資とは、現金(金銭)の代わりに、パソコンや車、不動産といった「モノ(現物財産)」を出資して会社の資本金に充てることを指します。
会社を設立する「発起人」であれば、誰でも現物出資を行うことが可能です。
仕組みとしては、まず発起人が出資する財産の種類、数量、価額などを決定し、それらの情報を会社のルールブックである「定款」に記載します。
そして、会社設立の登記手続きの際に、その財産を会社に引き渡すことで出資が完了します。
金銭出資が「お金を払い込む」のに対し、現物出資は「モノを引き渡す」という点が最大の違いです。
金銭出資と現物出資の主な違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | 金銭出資 | 現物出資 |
|---|---|---|
| 出資する対象 | 現金(日本円) | パソコン、車両、不動産、有価証券などの現物財産 |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 財産の評価や書類作成などが必要で、手続きが煩雑になる傾向がある |
| 財産の価額評価 | 不要(額面通り) | 原則として必要(適正な時価で評価する) |
| 必要な主な書類 | 払込証明書 | 定款への記載、調査報告書、財産引継書など |
金銭出資にはない現物出資のメリットとデメリット
現物出資は、特に自己資金が潤沢でない創業者にとって魅力的な選択肢ですが、メリットだけでなくデメリットも存在します。
両方を十分に比較検討し、ご自身の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
ここでは、現物出資の具体的なメリットとデメリットを掘り下げていきます。
現物出資の3つのメリット
1. 手元に現金がなくても会社設立が可能
現物出資の最大のメリットは、手元の現金を減らすことなく、必要な資本金を用意できる点です。
例えば、事業で使う予定のパソコンや車をすで個人で所有している場合、それを資本金として計上できます。
これにより、手元資金を運転資金や設備投資に回すことができ、設立当初の資金繰りに余裕が生まれます。
2. 会社の信用力向上につながる
資本金の額は、会社の規模や体力を示す指標の一つと見なされることがあります。
現物出資を活用して資本金の額を大きくすることで、会社の社会的信用度が高まる可能性があります。
これは、金融機関からの融資審査や、新規取引先との契約交渉において有利に働く場合があります。
3. 個人資産をスムーズに法人へ移転できる
特に個人事業主から法人成り(法人化)する場合に大きなメリットとなります。
個人事業で使っていた事業用の資産(設備、在庫、車両など)を売買などの手続きを経ずに、現物出資という形でスムーズに新設法人へ引き継ぐことができます。
これにより、資産移転の手間とコストを削減できます。
現物出資の2つのデメリット
1. 手続きが煩雑で時間がかかる
金銭出資に比べて、現物出資は手続きが複雑です。
出資する財産の詳細を定款に記載する必要があるほか、その財産の価額が妥当であることを証明するための「調査報告書」や、財産を会社に引き継いだことを証明する「財産引継書」といった追加の書類作成が求められます。
これらの手続きに手間と時間がかかる点はデメリットと言えるでしょう。
2. 財産の価額評価に専門知識が必要で費用がかかる場合がある
現物出資する財産は、客観的かつ適正な時価で評価しなければなりません。
中古のパソコンや車であれば市場価格を参考にできますが、不動産や株式、自社開発のソフトウェアといった知的財産権などは、評価が非常に難しくなります。
価額の評価を誤ると、後々追加の出資義務(填補責任)が生じるリスクもあります。
そのため、場合によっては税理士や不動産鑑定士といった専門家に評価を依頼する必要があり、その分の費用が発生します。
資本金として現物出資できる資産の種類

会社設立時の資本金は、現金だけでなく「モノ」や「権利」といった現物資産でも出資が可能です。
これを現物出資と呼びます。
現物出資の対象となる資産は多岐にわたりますが、大原則として「譲渡可能」であり、会社の貸借対照表に「資産として計上できる」ものでなければなりません。
具体的にどのような資産が現物出資の対象となるのか、種類別に詳しく見ていきましょう。
パソコンや車などの動産
動産とは、土地や建物といった不動産以外の有形の財産を指します。
事業を始めるにあたって必要となる多くの物品が、この動産に該当します。
特に、個人事業主から法人成りする場合や、創業者がすでに所有している事業用の備品を活用したい場合に有効な手段です。
現物出資の対象となる動産の価額は、原則としてその時点での「時価」で評価されます。
新品であれば購入価額で問題ありませんが、中古品の場合は使用状況や年数に応じた減価償却を考慮した、客観的な価額を算定する必要があります。
| 動産の種類 | 具体例 | 補足 |
|---|---|---|
| 車両運搬具 | 営業用の自動車、バイク、トラックなど | ローンが残っている場合は、債務も同時に引き継ぐ「債務引受」の手続きが必要になることがあります。 |
| 工具器具備品 | パソコン、モニター、プリンター、サーバー、デスク、椅子、電話機、業務用ソフトウェアなど | 事業運営に直接必要な備品が対象です。中古PCなどは市場価格や減価償却後の簿価を参考に評価します。 |
| 機械装置 | 工場で使う製造機械、建設用の重機など | 高額になりやすいため、専門家による評価が必要となるケースが多いです。 |
| 商品・製品 | 販売目的で保有している在庫商品、原材料など | 棚卸資産として計上されます。販売見込み価額や仕入価額を基に評価します。 |
土地や建物などの不動産
事務所や店舗として利用する土地や建物などの不動産も、現物出資の対象となります。不動産は一般的に評価額が高額になるため、資本金を大きく増やすことができる一方、手続きが複雑になる傾向があります。
不動産を現物出資する場合、所有権を個人から設立する会社へ移転するための登記手続きが必須です。
この際、登録免許税や不動産取得税といった税金が別途発生することに注意が必要です。
評価額の算定には、固定資産税評価額や路線価、不動産鑑定士による鑑定評価などが用いられます。
| 不動産の種類 | 具体例 | 補足 |
|---|---|---|
| 土地 | 事業所の敷地、駐車場用地、資材置き場など | 所有権が明確であることが大前提です。 |
| 建物 | オフィス、店舗、工場、倉庫、社宅など | 建築年数や構造、現在の状態を考慮して評価されます。 |
| 借地権 | 建物を所有するために土地を借りる権利 | 地主の承諾が必要な場合が多く、権利関係が複雑なため専門家への相談が推奨されます。 |
株式などの有価証券や知的財産権
有価証券や知的財産権といった「無形の財産」も現物出資の対象となります。
これらは目に見えない資産ですが、事業において大きな価値を持つ可能性があります。
ただし、動産や不動産と比べて客観的な価額の算定が難しい場合が多く、専門的な知識が求められるケースが少なくありません。
特に、ソフトウェアの著作権や営業権(のれん)などは、その価値を証明するための客観的な資料を慎重に準備する必要があります。
| 資産の分類 | 種類 | 具体例と補足 |
|---|---|---|
| 有価証券 | 上場株式・投資信託 | 市場価格が明確なため評価は比較的容易です。出資する日の終値などを基準に評価します。 |
| 非上場株式 | 客観的な市場価格がないため、会社の純資産額や収益性などを基に算定します。税理士などの専門家による評価が一般的です。 | |
| 知的財産権 (無体財産権) | 特許権・実用新案権 | 独自技術に関する権利です。その技術が生み出す将来の収益などを基に価値を算定します。 |
| 商標権・意匠権 | ブランドロゴやデザインに関する権利です。ブランドの知名度や価値が評価の対象となります。 | |
| 著作権 | 自社開発したソフトウェア、Webサイトのコンテンツ、キャラクターデザインなどが該当します。 | |
| 営業権(のれん) | 個人事業から法人成りする際に、事業が持つ顧客リストやブランドイメージなどの「超過収益力」を評価したものです。 | |
| 債権 | 売掛金・貸付金 | 個人事業主が持っていた売掛金や、他人への貸付金も資産として出資可能です。ただし、回収可能性を厳密に評価する必要があります。 |
資本金を現物出資で調達する具体的な方法と手続きの流れ

資本金を現物出資で調達する場合、金銭のみで出資するケースとは異なる特有の手続きが必要です。
手続きは複雑に感じられるかもしれませんが、ステップごとに正しく進めれば問題ありません。
ここでは、会社設立時に現物出資を行うための具体的な方法と手続きの流れを4つのステップに分けて詳しく解説します。
ステップ1 定款への記載事項を決定する
現物出資を行う場合、まず会社の基本ルールを定めた「定款(ていかん)」に、その旨を記載する必要があります。
これは会社法で定められた必須の手続きであり、「変態設立事項」と呼ばれます。この記載がなければ、現物出資の効力は認められません。
具体的には、定款に以下の4つの項目を明記します。
- 現物出資をする者の氏名または名称
- 出資の目的となる財産(例:トヨタ プリウス、MacBook Pro 16インチなど)
- その財産の価額
- その者に対して割り当てる設立時発行株式の数
これらの項目を正確に定款へ記載することが、法的に有効な現物出資を行うための第一歩となります。
後々のトラブルを避けるためにも、財産の特定や価額の設定は慎重に行いましょう。
ステップ2 現物出資する財産の価額を評価する
定款に記載する財産の価額は、客観的かつ適正に評価されている必要があります。
不当に高い価額で評価すると、会社の財産が不足し、他の株主や債権者に損害を与える可能性があるためです。
この価額の妥当性を調査するため、原則として裁判所が選任した「検査役」による調査が義務付けられています。
しかし、検査役の調査は時間と費用がかかるため、実務上は以下の例外規定を利用するのが一般的です。
特に、出資する財産の合計額が500万円以下であれば、検査役の調査が不要となるため、多くのスタートアップ企業で活用されています。
| 例外規定 | 内容 |
|---|---|
| 価額が500万円以下の場合 | 定款に記載された現物出資財産の価額の合計額が500万円を超えないケース。最も利用しやすい例外です。 |
| 市場価格のある有価証券の場合 | 証券取引所の相場など、客観的な市場価格のある有価証券を、その市場価格以下の価額で出資するケース。 |
| 専門家による証明がある場合 | 出資財産の価額が相当であることについて、弁護士、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人の証明(不動産の場合は不動産鑑定士の鑑定評価も必要)を受けたケース。 |
どの方法を選択するかは、出資する財産の種類や価額によって異なります。
専門家への依頼には費用が発生するため、500万円以下の範囲で現物出資を行うのが最も手軽な方法と言えるでしょう。
ステップ3 必要な書類を作成し提出する
財産の価額評価が完了したら、会社設立の登記申請に向けて、現物出資に特有の書類を作成します。
金銭出資の場合に加えて準備が必要となる、代表的な書類が「調査報告書」と「財産引継書」です。
調査報告書
調査報告書は、定款に記載された現物出資財産の価額が妥当であるかどうかを、設立時取締役(および設立時監査役を設置している場合は設立時監査役)が調査し、その結果をまとめた書類です。
この書類には、主に以下の内容を記載します。
- 現物出資財産が確かに給付されたこと
- 評価された財産の価額が相当であると判断したこと
- その判断の根拠(例:購入時の領収書、中古市場での同等品の販売価格、専門家の査定書など)
検査役の調査を省略した場合でも、この調査報告書を作成・提出することで、価額の適正性を会社内部で担保する役割を果たします。
価額の根拠となる資料(ウェブサイトのスクリーンショットや見積書など)を添付して保管しておくと、より信頼性が高まります。
財産引継書
財産引継書は、現物出資を行った発起人から、設立される会社(具体的には設立時代表取締役)へ、対象の財産が確かに引き渡されたことを証明するための書類です。
出資の「履行」を証明する重要な証拠となります。
記載する内容はシンプルで、以下の項目が含まれます。
- 財産を引き渡した年月日
- 引き渡した財産の詳細(品名、メーカー、型番、数量など、財産を特定できる情報)
- 引き渡す者(発起人)の氏名・住所
- 受け取る者(会社の商号と設立時代表取締役の氏名・住所)
この書類に発起人と設立時代表取締役がそれぞれ記名押印することで、財産の引き渡しが完了したことの正式な記録となります。
金銭出資における「払込証明書」と同様の役割を担う書類と理解しておくと良いでしょう。
ステップ4 会社設立の登記申請を行う
すべての書類が揃ったら、いよいよ最終ステップである法務局への会社設立登記申請です。
通常の設立登記に必要な書類一式に加え、これまで準備してきた現物出資関連の書類を添付して提出します。
現物出資がある場合の登記申請では、添付書類が追加されるため、漏れがないように入念にチェックすることがスムーズな登記完了の鍵となります。
以下に、現物出資を行う株式会社の設立登記で一般的に必要となる書類をまとめました。
| 書類名 | 概要 |
|---|---|
| 登記申請書 | 会社の基本情報を記載する申請書の本体です。 |
| 定款 | 公証役場で認証を受けた定款の謄本です。 |
| 発起人の決定書 | 本店所在地などを決定したことを証明する書類です。 |
| 設立時取締役の就任承諾書 | 取締役に就任することを承諾した証明です。 |
| 印鑑証明書 | 取締役全員の個人の印鑑証明書が必要です。 |
| 払込証明書 | 金銭出資がある場合に、その払込みがあったことを証明する書類です。 |
| 調査報告書 | 現物出資財産の価額が相当であることの調査結果をまとめた書類です。 |
| 財産引継書 | 現物出資財産が会社に引き継がれたことを証明する書類です。 |
| 資本金の額の計上に関する証明書 | 資本金の額が会社法および会社計算規則に従って計上されたことを証明する書類です。 |
| 印鑑届書 | 会社の実印(代表者印)を法務局に登録するための書類です。 |
これらの書類を管轄の法務局に提出し、登記が完了すれば、晴れて会社設立となります。
現物出資の手続きはこれで完了です。
資本金の現物出資における5つの注意点

現物出資は手元の現金が少なくても会社を設立できる便利な制度ですが、金銭出資にはない特有のルールや注意点が存在します。
後々のトラブルを避け、スムーズな会社運営をスタートさせるために、これから解説する5つのポイントを必ず押さえておきましょう。
注意点1 財産の価額評価は適正に行う
現物出資で最も重要なのが、出資する財産の価額を適正に評価することです。
なぜなら、不当に高い価額で評価すると、資本金が過大計上され、会社の財産的基礎が揺らいでしまうからです。
これは、他の株主や会社の債権者に対して不利益を与える行為であり、会社法でも厳しく規制されています。
例えば、実際には10万円の価値しかないパソコンを50万円として現物出資した場合、帳簿上の資本金は50万円増えますが、会社の実際の財産は10万円しか増えていません。
この差額40万円は「見せかけの資本金」となり、会社の信用を著しく損ないます。
価額を評価する際は、以下のような客観的な根拠に基づいて行いましょう。
- パソコンや車などの動産:購入時の領収書(購入から時間が経っている場合は減価償却を考慮)、中古販売サイトでの同等品の販売価格、専門業者による査定書など。
- 土地や建物などの不動産:固定資産税評価証明書、不動産鑑定士による鑑定評価書、近隣の取引事例など。
- 有価証券:証券取引所における取引価格など。
客観的な根拠に乏しい自己判断による評価は、税務調査で指摘されたり、後述する「填補責任」を問われたりするリスクを高めます。
価額の妥当性を証明できる資料を必ず保管し、自信がない場合は税理士などの専門家に相談することが賢明です。
注意点2 500万円の壁と検査役の調査
会社法では、現物出資財産の価額が適正であるかを担保するため、原則として裁判所が選任する「検査役」による調査を受けなければならないと定められています。
検査役の調査には数十万円から百万円程度の費用と、1ヶ月以上の期間がかかるため、スタートアップにとっては大きな負担となります。
しかし、この検査役の調査が不要になる例外規定があります。
特に重要なのが、いわゆる「500万円の壁」です。
| 条件 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 価額が500万円以下 | 現物出資する財産の合計価額が500万円を超えない場合。 | 最も利用しやすく、多くの会社設立で活用される方法。複数の資産を現物出資する場合は、その合計額で判断される。 |
| 市場価格のある有価証券 | 証券取引所で取引されている株式などで、定款に記載された価額が市場価格を超えない場合。 | 客観的な時価が明確なため、調査が不要となる。 |
| 専門家による証明 | 現物出資財産の価額について、弁護士、公認会計士、税理士などによる証明を受けた場合。(不動産の場合は不動産鑑定士の鑑定評価が必須) | 専門家への依頼費用は発生するが、検査役の調査よりは安価で迅速な場合が多い。 |
会社設立の手間とコストを抑えたいのであれば、現物出資する財産の合計価額を500万円以下に調整するのが最も現実的で効果的な方法です。
この「500万円」という基準は、現物出資を検討する上で必ず覚えておくべき重要なポイントです。
注意点3 給付不足の場合の填補責任
もし、現物出資した財産の実際の価額が、定款に記載された価額に著しく不足していた場合、会社設立時の発起人および設立時取締役は、連帯してその不足額を支払う義務を負います。
これを「価額填補責任(かがくてんぽせきにん)」と呼びます(会社法第52条)。
例えば、前述の例のように10万円のパソコンを50万円で現物出資し、それが後に発覚した場合、発起人などは差額の40万円を現金などで会社に支払わなければなりません。
これは、意図的に価額を偽った場合はもちろん、評価に過失があった場合でも責任を問われる可能性がある、非常に重い責任です。
この填補責任は、以下の例外を除き、免れることは困難です。
- 検査役の調査を経た場合
- 職務を行うについて注意を怠らなかったことを自ら証明した場合
特に後者の「無過失の証明」は非常に難しいため、事実上、填補責任を回避するには適正な価額評価を行うしかありません。
「注意点1」で述べたように、客観的な根拠に基づいた評価がいかに重要であるかが、この填補責任のリスクからもお分かりいただけるでしょう。
注意点4 税務上の取り扱いを理解する
現物出資は、税務上「資産の譲渡」として扱われます。
そのため、出資する個人側と、出資を受ける法人側の両方で税金の問題が発生する可能性があり、注意が必要です。
出資者(個人)にかかる税金:譲渡所得税
個人が所有する資産を法人に現物出資する行為は、その資産を「時価」で会社に売却したとみなされます。
そのため、現物出資する資産の時価が、その資産の取得価額(購入代金など)を上回る場合、その差額(譲渡益)に対して所得税・住民税が課税されます。
例えば、3年前に20万円で購入したパソコンが、現物出資時の時価で30万円と評価された場合、差額の10万円が譲渡所得として課税対象になる可能性があります(※減価償却の計算などにより実際の計算は異なります)。
特に、購入時より価値が上がっている不動産や株式を現物出資する際は、多額の譲渡所得税が発生するケースがあるため、必ず事前に税理士に相談してください。
法人側で考慮すべき税務
法人側では、現物出資された資産を「時価」で帳簿に計上します。
この価額が、その後の減価償却費を計算する上での基礎となります。
また、出資された資産が消費税の課税対象(パソコン、車両など)であり、出資者が課税事業者であった場合、法人は仕入税額控除を受けられる可能性があります。
税務の取り扱いは非常に複雑なため、自己判断せず、必ず税理士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
注意点5 不動産の場合は登記費用や税金が別途必要
パソコンや車両などの動産とは異なり、土地や建物といった不動産を現物出資する場合には、特有の費用が発生します。
資本金として現金を用意する必要がない代わりに、これらの諸費用を現金で支払う必要があるため、事前に資金計画に組み込んでおくことが不可欠です。
具体的には、主に以下の3つの費用がかかります。
| 費用の種類 | 内容 | 支払先 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 不動産の名義を個人から法人へ変更する「所有権移転登記」の際に国に納める税金。税額は「固定資産税評価額 × 2.0%」が基本。 | 法務局 |
| 不動産取得税 | 法人が不動産を取得したことに対して課される都道府県税。税額は「固定資産税評価額 × 3%~4%」(軽減措置あり)。 | 都道府県税事務所 |
| 司法書士報酬 | 所有権移転登記の手続きを司法書士に依頼するための報酬。10万円前後が目安だが、物件の価額や難易度により変動する。 | 司法書士事務所 |
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の土地を現物出資する場合、登録免許税が20万円、不動産取得税が30万円~40万円、さらに司法書士報酬がかかります。
これらの費用は合計で数十万円以上になることも珍しくなく、設立費用とは別に現金で準備しておく必要があります。
不動産の現物出資を検討する際は、これらの付随費用を必ず念頭に置いておきましょう。
資本金の現物出資に関するよくある質問

資本金の現物出資を検討する際、多くの方が抱く具体的な疑問について、Q&A形式で詳しく解説します。
手続きを進める前に、これらの点をしっかり確認しておきましょう。
個人事業主の資産を現物出資できますか
はい、個人事業主として事業に使用していた資産を、新しく設立する会社に現物出資することは可能です。
実際に、個人事業主から法人成りする際に、事業で使っていた資産を引き継ぐ目的で現物出資がよく利用されます。
例えば、以下のような資産が現物出資の対象となります。
- 事業で使用していたパソコン、プリンター、業務用ソフトウェア
- 店舗の什器、備品、在庫商品
- 事業用の車両
- 事業所として使用していた不動産
ただし、注意すべき点がいくつかあります。
まず、出資する資産の価額は、客観的な時価で適正に評価する必要があります。
また、個人事業主が消費税の課税事業者である場合、事業用資産の現物出資は「資産の譲渡」とみなされ、消費税の課税対象となる可能性があります。
この場合、出資者である個人が消費税を申告・納付する必要があるため、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
ローンが残っている車でも現物出資できますか
ローン(残債務)が残っている車を現物出資することは、条件付きで可能ですが、手続きが複雑になるため慎重な判断が必要です。
最も重要な確認事項は、自動車検査証(車検証)の「所有者の氏名又は名称」欄です。
ローンを利用して車を購入した場合、ローン完済まで所有権がディーラーや信販会社に留保されているケースが一般的です。
この「所有権留保」の状態では、所有者である信販会社などの承諾なしに、会社の設立後に法人名義へ変更することができません。
そのため、事実上、所有権留保中の車の現物出資は困難と言えます。
もし所有者が自分自身になっており、単にローンが残っているだけであれば、現物出資は可能です。
その場合、「車の時価」から「ローンの残債務額」を差し引いた金額が、現物出資の価額となります。
例えば、車の時価が150万円、ローン残債が50万円であれば、現物出資額は100万円です。
このとき、会社が50万円の債務を引き継ぐことになるため、その旨を定款に明記する必要があります。
現物出資に消費税はかかりますか
現物出資が消費税の課税対象になるかどうかは、「出資する人」と「出資する資産」の種類によって決まります。
現物出資は税法上「資産の譲渡」として扱われるため、条件によっては消費税が発生します。
具体的には、出資する人が消費税の「課税事業者」(通常、前々年の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主など)であり、かつ出資する資産が国内における事業として行う「課税資産」(建物、機械、車両、パソコンなど)である場合に、消費税が課税されます。
土地や有価証券などの非課税資産を出資する場合は、課税されません。
また、出資する人がサラリーマンや免税事業者である場合も、原則として消費税はかかりません。
以下の表に主なケースをまとめました。
| 出資者の区分 | 出資する資産の種類 | 消費税の課税有無 |
|---|---|---|
| 課税事業者 | 事業用の課税資産(建物、車両、PCなど) | 課税される |
| 課税事業者 | 土地、有価証券、貸付金など | 課税されない |
| 免税事業者・給与所得者 | すべての資産 | 課税されない |
重要なのは、消費税が課税される場合、その納税義務を負うのは資産を受け取る新会社ではなく、資産を譲渡した出資者個人であるという点です。
資金計画に影響するため、該当する可能性があれば必ず事前に確認しましょう。
現物出資した資産の名義変更はいつ行いますか
不動産や自動車など、登記・登録制度がある資産を現物出資した場合、その名義変更手続きは会社設立の登記が完了した後、速やかに行う必要があります。
現物出資による財産の移転は、会社が成立した時点で効力が生じます。
しかし、その資産が「自分の会社の所有物である」と第三者(取引先や金融機関など)に対して法的に主張するためには、名義変更の手続き(所有権移転登記・移転登録)を完了させなければなりません。
手続きの一般的な流れは以下の通りです。
- 法務局で会社設立登記を申請し、登記を完了させる。
- 会社の登記事項証明書(登記簿謄本)と印鑑証明書を取得する。
- これらの書類とその他必要書類を揃え、不動産であれば管轄の法務局、自動車であれば管轄の運輸支局にて、法人への名義変更手続きを行う。
名義変更を怠ると、その資産を会社の資産として売却したり、担保に入れたりすることができなくなるため、会社設立が完了したら、忘れずに手続きを進めましょう。
まとめ
現物出資は、手元の現金が少ない場合でも会社を設立できる有効な手段です。
パソコンや車、不動産など様々な資産を活用できるメリットがある一方、金銭出資と比べて手続きが複雑で、専門的な知識が求められる点に注意が必要です。
特に、出資財産の価額が500万円を超えると原則として検査役の調査が必要になるなど、厳格なルールが定められています。
思わぬトラブルを避け、スムーズに会社設立を完了させるためにも、手続きに不安がある場合は司法書士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。