会社設立にあたり、対外的な信用力を高めるために資本金を多く見せたいと考える経営者は少なくありません。
しかし、一時的な借入金を資本金として装う「見せ金」は、刑法上の罪に問われる可能性や、銀行融資の審査で即座に否決される原因となる極めて危険な行為です。
本記事では、見せ金がなぜ税務署や金融機関にバレるのか、その仕組みと法的なリスクについて徹底解説します。
あわせて、現物出資の活用や日本政策金融公庫の創業融資など、違法な手段に頼らず資金不足を解決する正しい資金調達術もご紹介します。
安全で確実な起業のために、ぜひ参考にしてください。
会社設立における見せ金とはどのような行為か
会社設立の準備を進める中で、手元の自己資金が目標とする資本金額に届かないケースは少なくありません。
そのような状況で、安易に検討されがちなのが「見せ金(みせがね)」と呼ばれる手法です。
しかし、これは会社法に抵触する違法性の高い行為であり、絶対に行ってはいけません。
まずは、見せ金が具体的にどのようなスキームで行われ、法的にどう定義されるのかを正しく理解しましょう。
一時的に借り入れたお金を資本金として見せる手口
見せ金とは、発起人(会社を作る人)が本来持っていない資金を、一時的に他者から借り入れて資本金として払い込み、会社設立の登記が完了した直後に引き出して返済する行為を指します。
会社法では、資本金は会社が事業を行うための元手として、会社財産として確保されている必要があります。
しかし、見せ金によって設立された会社は、帳簿上は資本金があるように見えますが、実際にはその現金はすぐに返済されて手元に残っていません。
具体的な見せ金の手口と流れは以下の通りです。
- 知人、ブローカー、消費者金融などから一時的に現金を借りる
- 発起人の個人通帳にその現金を入金し、記帳して資本金の払込みがあったように装う
- 通帳のコピーなどの証明書類を法務局へ提出し、会社設立登記を行う
- 登記完了後、会社口座または個人口座からすぐに現金を引き出し、借入先に返済する
この一連の流れにより、会社には資本金として活用できる財産が全く残らない「資本の空洞化」が生じることになります。
これは債権者や取引先を欺く行為であり、コンプライアンスの観点からも許されるものではありません。
見せ金と預け合いの違いについて
見せ金と似た言葉に「預け合い(あずけあい)」というものがあります。
どちらも実際には出資されていないのに出資されたように見せかける「仮想払込(かそうはらいこみ)」の一種ですが、その手口や関与する相手、資金の拘束性に明確な違いがあります。
「預け合い」とは、発起人が銀行などの金融機関からお金を借りて、それを資本金の払い込みに充てる代わりに、借入金を返済するまではその預金を引き出さないことを銀行と約束する行為です。
銀行側も事情を知った上で協力している点が特徴ですが、現在では発起設立において銀行の「払込金保管証明書」が不要になったため、預け合いよりも見せ金の方が発生しやすい傾向にあります。
両者の違いを整理すると以下のようになります。
| 項目 | 見せ金 | 預け合い |
|---|---|---|
| 資金の出処 | 知人、金主、消費者金融など (銀行は関与しないケースが多い) | 銀行などの金融機関 |
| 資金の拘束性 | 設立後すぐに引き出して返済するため、会社に資金は残らない | 返済完了まで銀行により預金が拘束され、自由に使えない |
| 法的性質 | 仮想払込の一種(偽装払込) | 仮想払込の一種(通謀虚偽表示に近い) |
| 主なリスク | 公正証書原本不実記載等罪や詐欺罪に問われる可能性 | 当該払込が無効となり、発起人に払込義務が残る |
いずれの手法も、会社法が求める「資本充実の原則」に反する行為です。
特に現在の会社設立実務では、通帳のコピーだけで設立が可能であるため、見せ金による設立が容易にできてしまう側面がありますが、後々の税務調査や融資審査で必ず発覚し、経営に重大な支障をきたします。
見せ金を使って会社設立をするリスクと違法性

「資本金を少しでも多く見せて、会社の信用力を高めたい」という安易な考えから見せ金を行うことは、経営者として絶対に避けるべき行為です。
見せ金は単なる資金調達の裏技ではなく、法律に違反する犯罪行為であり、会社設立後の経営を破綻させる致命的なリスクを孕んでいます。
ここでは、見せ金が具体的にどのような法的責任を問われ、実務上どのような不利益を被るのかを解説します。
公正証書原本不実記載等の罪に問われる可能性
見せ金による会社設立で最も重いリスクは、刑事罰の対象となることです。
登記申請の際に、実際には会社に資金がないにもかかわらず、資本金が払い込まれたかのように装って虚偽の登記を行うことは、刑法第157条の「公正証書原本不実記載等罪」に該当します。
これは、公務員(法務局の登記官)に対して虚偽の申告を行い、公的な文書(登記簿)に嘘の記載をさせたことに対する罪です。
もしこの罪に問われた場合、以下のような重い刑罰が科される可能性があります。
| 罪名 | 法的根拠 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 公正証書原本不実記載等罪 | 刑法第157条第1項 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
会社をスタートさせる段階で経営者に「前科」がつく可能性があり、逮捕や起訴となれば、事業の継続どころではなくなってしまいます。
会社設立自体が無効になる法的リスク
刑事罰だけでなく、会社法上のリスクも存在します。資本金は会社の信用の基礎となる財産ですが、見せ金によって設立された会社はこの基礎が欠けている状態です。
そのため、株主や債権者などから「会社の設立無効の訴え」を起こされる可能性があります。
裁判所によって設立無効の判決が確定すると、会社は将来に向かってその効力を失い、事実上の解散状態となります。
設立が無効となれば、それまでに締結した契約の扱いや従業員の雇用問題など、多大な混乱を招くことになります。
また、見せ金に関与した発起人や取締役は、会社に対して連帯して出資金額を支払う義務(填補責任)を負うことになり、個人の財産も脅かされることになります。
銀行融資の審査で否決される大きな原因になる
法的なリスクに加え、実務面で最も痛手となるのが「銀行融資が受けられなくなる」という点です。
創業融資や銀行融資の審査において、金融機関は必ず「通帳の原本(またはインターネットバンキングの入出金明細)」を確認します。
銀行員は資金の流れを見るプロです。以下のような履歴があれば、即座に見せ金であると見抜かれます。
| チェック項目 | 見せ金と判断される典型的な動き | 金融機関の判断 |
|---|---|---|
| 入金のタイミング | 会社設立の直前に、出所不明のまとまった資金が入金されている。 | 自己資金の実態がない「架空の資本金」とみなされ、融資審査は否決される。 |
| 出金のタイミング | 会社設立登記の直後に、資本金と同額程度の資金が引き出されている。 |
一度でも見せ金による粉飾を疑われれば、その金融機関での信用はゼロになります。
また、信用保証協会の審査で否決された場合、その履歴が残るため、他の金融機関に申し込んでも融資を受けることが極めて困難になります。
目先の資本金を大きく見せようとした結果、将来の資金調達の道を自ら閉ざしてしまうことになるのです。
なぜ資本金の見せ金は銀行や税務署にバレるのか

「一時的に借りてきて、会社を作った後にすぐ返せば誰にもバレないだろう」と安易に考えて見せ金を行う経営者は少なくありません。
しかし、金融機関や税務署は資金の流れを見るプロフェッショナルです。
見せ金工作は、通帳の履歴や決算書の数字の違和感から容易に見抜かれてしまいます。
ここでは、具体的にどのようなポイントで不正が発覚するのか、そのメカニズムを解説します。
通帳の入出金履歴から不自然な資金移動が発覚する
創業融資を申し込む際、銀行や日本政策金融公庫は必ず「通帳の原本」の提示を求めます。審査担当者は、単に現在の残高だけを見ているわけではありません。
過去半年から1年分以上の入出金履歴を細かくチェックし、資金の出所を確認しています。
見せ金を行った場合、通帳には以下のような不自然な履歴が残ります。
| チェックポイント | 正常な自己資金の特徴 | 見せ金(疑われるケース)の特徴 |
|---|---|---|
| 入金のタイミング | 給与や貯蓄などが長期間にわたりコツコツと積み立てられている。 | 会社設立の直前に、まとまった大金が一度に入金されている。 |
| 出金のタイミング | 事業に必要な経費として、少しずつ、あるいは計画的に使われている。 | 会社設立登記が完了した直後に、資本金と同額程度が一度に出金されている。 |
| 資金の整合性 | 収入源と貯蓄額のバランスが取れている。 | 個人の収入状況に対して不釣り合いな高額入金がある。 |
このように、「急に入ったお金」が「すぐに消えている」履歴があれば、審査担当者は「これは借りてきたお金を返済したのだな」と即座に判断します。
たとえ別の銀行口座を経由させるなどの工作をしても、資金の流れを追跡されれば隠し通すことはできません。
決算書の貸借対照表における現金の不整合
融資の審査だけでなく、決算書(貸借対照表)の内容からも見せ金は発覚します。
会社設立時に資本金として計上された現金は、本来であれば会社の資産として手元(または口座)に残っているか、事業経費として使われているはずです。
しかし、見せ金の場合はすぐに個人的な借入先へ返済してしまうため、会社の中に現金が残りません。
この矛盾を会計処理しようとすると、勘定科目に異常が現れます。
多くの場合、なくなった現金の辻褄を合わせるために「役員貸付金」という勘定科目を使って処理せざるを得なくなります。
「役員貸付金」とは、会社が社長個人にお金を貸している状態を指します。
設立したばかりの会社が、事業に使わず社長にお金を貸しているという決算書は、銀行から見れば「公私混同している」「資産の実態がない」とみなされ、融資審査において致命的なマイナス評価となります。
税務調査のタイミングで指摘されるケース
設立当初は融資を受けず、数年経ってから税務調査が入った際に発覚するケースもあります。
税務署は会社の経理処理が適正かどうかを調査する権限を持っており、設立時の資本金の出所についても厳しくチェックします。
税務調査官は、不自然な資金の出入りがあれば、社長個人の通帳や借入先との関係性を徹底的に洗います。
もし見せ金であることが発覚した場合、以下のような指摘を受けるリスクがあります。
- 資本金としての実態がないと判断され、公正証書原本不実記載等に該当する可能性の指摘
- 実際には社長への貸付金であると認定され、認定利息(会社が社長から利息を受け取るべきという計算)に対する課税
このように、見せ金は「その場しのぎ」で実行しても、通帳の履歴や決算書という動かぬ証拠として残り続け、将来にわたって会社のリスクとなり続けるのです。
見せ金に頼らずに資金不足を解決する正しい方法

会社設立において資本金の額は会社の信用力を示す重要な指標ですが、手元の資金が足りないからといって「見せ金」に手を染めるのはあまりにリスクが高すぎます。
違法行為や融資否決といった最悪の事態を避けるためには、法律で認められた正規の手段で資金調達や資本金設定を行う必要があります。
ここでは、見せ金という危険な橋を渡らずに、安全かつ確実に会社設立時の資金問題を解決する3つの具体的な方法について解説します。
現物出資を活用して資本金を増やす
手元の現金が少ない場合に最も有効な手段の一つが「現物出資」です。
会社設立時の出資は現金で行うのが一般的ですが、会社法では現金以外の財産による出資も認められています。
これを活用することで、現金を借り入れることなく資本金の額を増やすことが可能です。
現物出資の対象となる資産とメリット
現物出資として認められる資産は、貸借対照表に資産として計上できる譲渡可能なものが対象となります。
起業家個人が所有している資産を会社の資本として組み入れることで、キャッシュフローを圧迫することなく、対外的な信用力となる資本金の額を大きく見せることができるのが最大のメリットです。
| 資産の区分 | 具体的な現物出資の例 |
|---|---|
| 動産 | 自動車、パソコン、カメラ、オフィス家具、機械設備など |
| 有価証券 | 上場株式、国債、社債など(市場価格のあるもの) |
| 不動産 | 土地、建物、店舗、事務所など |
| 知的財産権 | 特許権、商標権、著作権、ソフトウェアなど |
検査役の調査を省略できる「500万円以下」の特例
かつて現物出資は、裁判所が選任する検査役の調査が必要であり、手続きが煩雑で費用もかかるため敬遠されがちでした。
しかし、現在の会社法では要件を満たせばこの調査を省略できます。
特に利用しやすいのが、現物出資する財産の総額が500万円以下であれば、検査役の調査が不要になるという特例です。
例えば、現金100万円と、時価評価額50万円のパソコン、150万円の営業車両をあわせて出資すれば、資本金300万円の会社として設立できます。
ただし、資産の評価額は「時価」である必要があり、不当に高く見積もると不足額填補責任を負う可能性があるため、市場価格や減価償却を考慮した適正な価格設定が求められます。
また、定款への詳細な記載と、財産引継書の作成が必要です。
自己資金の範囲内で資本金を設定して設立する
無理に資本金を大きく見せようとせず、現在保有している自己資金の範囲内で資本金を設定することも、立派な戦略の一つです。
見せ金を使ってまで虚偽の資本金を計上するよりも、身の丈に合ったスタートを切る方が経営の安全性は高まります。
会社法改正による「1円起業」の現実性
現在の会社法では最低資本金制度が撤廃されており、極端な例では資本金1円でも株式会社を設立することが可能です。
もちろん、対外的な信用や銀行口座開設の審査を考慮すると、ある程度の金額(数十万円〜数百万円)を用意することが望ましいですが、1,000万円などの大きな金額にこだわる必要はなく、手元にある資金だけで設立しても法的な問題は一切ありません。
許認可が必要な業種における注意点
ただし、事業内容によっては許認可の要件として「最低資本金額」や「財産的基礎」が定められている場合があります。
以下の表にあるような業種で起業する場合は、自己資金のみで要件を満たせるか確認が必要です。
| 業種 | 主な資産要件の目安 |
|---|---|
| 一般建設業 | 自己資本が500万円以上あること、または500万円以上の資金調達能力があること |
| 労働者派遣事業 | 基準資産額が2,000万円 × 事業所数以上、かつ現金預金が1,500万円以上 |
| 有料職業紹介事業 | 基準資産額が500万円以上、かつ現金預金が150万円以上 |
| 旅行業(第3種) | 基準資産額が300万円以上 |
これらの許認可が必要ないビジネスであれば、まずは少額の資本金で設立し、事業が軌道に乗ってから増資を行うというステップを踏むのが賢明です。
不足する運転資金は「役員借入金」で対応する
資本金を低く設定すると、設立直後の運転資金が不足する懸念があります。
この場合、社長個人が会社にお金を貸す「役員借入金」として処理すれば問題ありません。
役員借入金は負債にはなりますが、銀行融資の審査においては、「役員借入金は実質的な自己資本とみなす」という判断がなされることも多く、見せ金のようなペナルティを受けることはありません。
日本政策金融公庫などの創業融資を検討する
「事業を始めるにはどうしてもまとまったお金が必要だが、手元資金が足りない」という場合、見せ金で資本金を水増しするのではなく、不足分を「融資」で調達するのが正しい順序です。
融資で得た資金は資本金には組み入れられませんが、事業資金としての実弾になります。
見せ金は融資審査で必ずバレて否決される
創業時の資金調達として最も利用されるのが、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や、自治体の制度融資です。
これらの審査では、通帳の原本を確認し、資金の出所を徹底的に洗います。
もし見せ金を行っていると、「自己資金の要件を満たしていない」だけでなく「虚偽の申告をした」とみなされ、融資は即座に否決され、以降の審査も絶望的になります。
正しい資金調達のプロセス
資金不足を解決する正しいアプローチは以下の通りです。
- 自己資金の確定:見せ金を使わず、本当に用意できる自己資金(現物出資含む)を資本金とする。
- 事業計画の作成:自己資金だけでは不足する設備資金や運転資金を算出する。
- 融資の申請:日本政策金融公庫などに、不足分を融資申し込みする。
日本政策金融公庫の新創業融資制度では、原則として創業資金総額の10分の1以上の自己資金が要件となっています。
つまり、見せ金で無理やり資本金を1,000万円に見せるよりも、正直に自己資金100万円で設立し、残りの900万円を融資で調達する計画を立てる方が、圧倒的に実現可能性が高いのです。
金融機関は、ごまかしのない誠実な事業計画と、コツコツ貯めた自己資金の履歴を高く評価します。
まとめ
会社設立時に資本金を多く見せるための「見せ金」は、公正証書原本不実記載等罪などの法的リスクを招くだけでなく、将来的な銀行融資の審査でも即座に否決される原因となります。
通帳の入出金履歴にある不自然な資金移動から、銀行や税務署には必ず発覚するため、安易な偽装工作は禁物です。
資金不足を解決するには、パソコンや車両などを活用する「現物出資」や、日本政策金融公庫の創業融資といった正当な手段を検討してください。
リスクを冒すのではなく、自己資金に見合った資本金設定や公的融資を活用し、安全かつ健全な形で事業をスタートさせましょう。