「とりあえず会社を作る」という考えは、社会的信用の向上や節税など大きなメリットがある一方、安易な判断は後悔に繋がります。
本記事では、法人化で得られる恩恵と、設立・維持費用や煩雑な手続きといったデメリットを徹底比較。
あなたの事業状況に照らし、今すぐ会社を設立すべきか、個人事業主のままが最適か、後悔しないための明確な判断基準を解説します。
結論「とりあえず会社を作る」は本当に得策か?判断基準を解説
「事業が軌道に乗ってきたし、そろそろ会社にしようかな」「どうせ起業するなら、最初から株式会社の方が格好いいかも」…そんな風に、「とりあえず会社を作る」という選択肢を考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、明確な目的や計画なしに勢いで法人化(法人成り)すると、思わぬ費用や手間に追われ、後悔するケースも少なくありません。
この章では、あなたが本当に今、会社を設立すべきなのかを判断するための具体的な基準を解説します。
メリット・デメリットの詳細を見る前に、まずはご自身の状況と照らし合わせ、最適な選択肢を見極めましょう。
会社設立が向いている人の特徴
個人事業主からの法人成り、あるいは新規事業の立ち上げにおいて、会社設立が有利に働くのはどのようなケースでしょうか。
以下の特徴に複数当てはまる場合は、法人化を具体的に検討する価値が高いと言えます。
判断基準 | 具体的な特徴 |
---|---|
税金・収益面 | 事業の課税所得が継続的に800万円を超える見込みがある。売上が1,000万円を超え、消費税の課税事業者になるタイミング(インボイス制度への対応も含む)。家族を役員にして、所得を分散させたいと考えている。将来の退職金や生命保険料を経費として計上し、節税と保障を両立させたい。 |
信用・取引面 | 取引先が大手企業中心で、法人格がないと契約が難しい、または不利になる。Webサイトや名刺に「株式会社」と記載し、社会的な信用度を高めたい。金融機関から大規模な融資を受け、事業を拡大する計画がある。 |
採用・組織面 | 事業拡大のために、優秀な人材を正社員として雇用したい。社会保険を完備することで、求人応募の魅力を高めたい。共同経営者と一緒に事業を運営していく予定がある。 |
事業計画・将来性 | 将来的に事業を売却(M&A)したり、上場(IPO)を目指したりするビジョンがある。建設業や古物商など、許認可の取得に法人格が必要な事業を行う。事業承継をスムーズに行いたいと考えている。 |
個人事業主のままがおすすめな人の特徴
一方で、現時点では法人化を急がず、個人事業主(またはフリーランス)として活動を続ける方がメリットが大きいケースも多々あります。
以下の特徴に当てはまる方は、慎重に検討することをおすすめします。
判断基準 | 具体的な特徴 |
---|---|
税金・収益面 | 事業の課税所得がまだ500万円以下で、今後も急激な増加は見込んでいない。売上が不安定で、赤字になる可能性がある(法人は赤字でも法人住民税の均等割がかかる)。小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、個人向けの節税制度で十分だと感じている。 |
費用・手間 | 設立費用(約6万円~25万円)や、税理士顧問料などのランニングコストをかけたくない。会計処理や社会保険手続きなどの複雑な事務作業に時間を取られたくない。事業をすぐに辞める可能性も考えており、廃業コスト(数十万円)を避けたい。 |
自由度・柔軟性 | 事業で得た利益を、プライベートな支出に自由に使いたい(法人の場合、役員報酬として受け取る必要がある)。自分のペースで働けるスモールビジネスを維持したい。副業として事業を行っており、本業の会社に知られたくない(法人登記情報は公開される)。 |
事業の状況 | 事業を始めたばかりで、まだ将来の見通しが立っていない。顧客が個人(BtoC)中心で、法人格の有無が取引に影響しない。大きな融資や人材採用の計画が当面ない。 |
これらの判断基準はあくまで一般的な目安です。
ご自身の事業内容、将来のビジョン、そして何より「なぜ会社を作りたいのか」という目的を明確にすることが、最適な選択への第一歩となります。
【メリット編】とりあえず会社を作ることで得られる具体的な恩恵

「とりあえず会社を作ってみようかな」と考える背景には、事業の拡大や節税への期待など、さまざまな動機があるでしょう。
個人事業主と比べて、法人化には具体的にどのような恩恵があるのでしょうか。
ここでは、会社設立がもたらす「信用面」「税金面」「資金面」の3つのメリットを詳しく解説します。
信用面でのメリット
法人化がもたらす最も大きなメリットの一つが「社会的信用」の向上です。
個人事業主と比べて、法人は第三者からの信頼を得やすく、ビジネスチャンスを大きく広げる可能性があります。
取引先や金融機関からの信頼が向上する
ビジネスの世界では、取引相手の信頼性が事業の成否を左右します。
法人格を持つことは、その信頼性を客観的に証明する強力な武器となります。
例えば、大手企業の中には取引先を法人に限定しているケースが少なくありません。
これは、法人が商業登記法に基づき、会社名(商号)、所在地、役員、資本金などの情報を法務局に登記しており、誰でもその情報を閲覧できるためです。
情報が公開されているという透明性が、取引の安全性につながるのです。
また、金融機関から融資を受ける際も、法人が有利になる傾向があります。
法人は会計処理が厳格であり、事業用の資産と個人の資産が明確に分離されているため、金融機関が事業の財務状況を正確に把握しやすいからです。
これにより、個人事業主よりも高い評価を得て、融資の審査に通りやすくなる可能性があります。
優秀な人材を採用しやすくなる
事業を成長させるためには、優秀な人材の確保が不可欠です。
求職者の視点から見ると、個人事業主よりも法人の方が魅力的に映ることが多く、採用活動を有利に進めることができます。
その最大の理由は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられている点です。
個人事業主が加入する国民健康保険や国民年金に比べて、厚生年金は将来の年金受給額が手厚くなるなど、従業員にとって手厚い保障となります。
この「福利厚生の充実」は、求職者が企業を選ぶ際の重要な判断基準であり、法人であること自体が大きなアピールポイントになるのです。
さらに、法人格を持つことで「安定性」や「将来性」がある企業というイメージを与え、求職者に安心感をもたらします。
結果として、より多くの応募者を集め、その中から優秀な人材を採用できる可能性が高まります。
税金面でのメリット
多くの人が会社設立を検討する大きな理由が「節税」です。
個人の所得に課される「所得税」と、法人の利益に課される「法人税」では、税率の構造が大きく異なります。
事業所得が一定額を超えた場合、法人化することで税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
所得税より低い法人税率が適用される
個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税」が採用されており、最大で45%に達します。
一方、法人税は所得額にかかわらず、ほぼ一定の税率が適用されます。
以下の表は、所得税と法人税の税率構造を比較したものです(住民税・事業税などを除く)。
課税所得金額 | 所得税率(個人事業主) | 法人税率(普通法人・資本金1億円以下) |
---|---|---|
〜195万円 | 5% | 年800万円以下の部分:15% |
195万円超〜330万円 | 10% | |
330万円超〜695万円 | 20% | |
695万円超〜800万円 | 23% | |
800万円超〜900万円 | 年800万円超の部分:23.2% | |
900万円超〜1,800万円 | 33% | |
1,800万円超〜4,000万円 | 40% | |
4,000万円超〜 | 45% |
この表からも分かるように、課税所得が800万円〜900万円を超えるあたりから、所得税率が法人税率を上回ります。
このラインが、法人化による節税効果を検討する一つの目安と言えるでしょう。
役員報酬で給与所得控除を活用できる
法人化すると、事業主自身は会社から「役員報酬」という形で給与を受け取ることになります。
この役員報酬は税法上「給与所得」として扱われ、収入額に応じて一定額を差し引ける「給与所得控除」が適用されます。
これは、いわばサラリーマンの「みなし経費」のようなもので、課税対象となる所得を圧縮する効果があります。
個人事業主の場合、売上から経費を差し引いた「事業所得」の全額が課税対象となりますが、法人化すれば、利益の一部を役員報酬として受け取り、給与所得控除を活用することで、個人の所得税・住民税を効果的に抑えることが可能です。
経費として認められる範囲が広がる
法人化すると、個人事業主では経費として認められにくい支出も、会社の経費(損金)として計上できる場合があります。
これにより、会社の利益を圧縮し、法人税の負担を軽減できます。
- 役員の生命保険料:一定の要件を満たす法人契約の生命保険は、保険料の一部または全額を損金として計上できます。役員の万が一の保障を準備しながら、節税につなげることが可能です。
- 社宅制度の活用:会社名義で住居を借り上げ、役員に社宅として貸し出すことで、家賃の大部分を会社の経費にできます。個人事業主の家事按分よりも有利になるケースが多く、役員個人の住居費負担も軽減できます。
- 出張手当(日当):出張旅費規程を整備すれば、宿泊費や交通費といった実費とは別に、役員や従業員に出張手当を支給できます。受け取った側は非課税所得となり、会社側は経費として計上できるため、双方にメリットがあります。
- 退職金の準備:役員退職慰労金制度を設けることで、将来の退職金を会社の経費として積み立て、損金算入できます。退職金は税制上も優遇されており、役員の老後資金を効率的に準備する手段となります。
資金面でのメリット
事業の維持・拡大には、円滑な資金調達が欠かせません。法人格を持つことは、融資や補助金・助成金の申請において有利に働くことが多く、資金調達の選択肢を広げます。
日本政策金融公庫などの融資制度の選択肢が増える
政府系金融機関である日本政策金融公庫や、地方自治体の制度融資など、起業家や中小企業を支援するための融資制度は数多く存在します。
これらの制度の中には、法人でなければ利用できないものや、法人の方が融資限度額などの条件面で優遇されるものがあります。
特に、創業期の資金調達で活用される「新創業融資制度」などは、法人としての事業計画の信頼性が審査で重視されます。
社会的信用が高い法人であることは、金融機関からの資金調達をスムーズに進めるための大きなアドバンテージとなるのです。
事業再構築補助金など助成金の対象になりやすい
国や地方自治体は、企業の新たな挑戦を支援するために、返済不要の補助金や助成金を数多く提供しています。
例えば、「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」といった大型の補助金は、事業計画の実現性や財務基盤が厳しく審査されます。
このような審査において、会計が明確で経営の透明性が高い法人は、個人事業主よりも高い評価を得やすい傾向にあります。
法人化することで、こうした大規模な補助金・助成金の採択率を高め、自己資金を抑えながら事業を大きく成長させるチャンスを掴みやすくなります。
【デメリット編】とりあえず会社を作って後悔する前に知るべきこと

「会社を作れば節税できる」「信用が上がる」といったメリットに惹かれ、勢いで法人化を考えている方も多いかもしれません。
しかし、その手軽なイメージとは裏腹に、会社設立には無視できないデメリットやリスクが数多く存在します。
メリットだけに目を向けて安易に会社を作ってしまうと、「こんなはずではなかった」と後悔する事態になりかねません。
ここでは、会社設立の前に必ず知っておくべき3つの側面(費用・手続き・自由度)からのデメリットを徹底的に解説します。
費用面でのデメリット
会社は作る時だけでなく、維持していくにも、そして万が一廃業する際にも費用がかかります。
個人事業主時代にはなかった金銭的負担が、常に付きまとうことを覚悟しなければなりません。
設立費用(登録免許税や定款手数料)の負担
会社の設立には、法務局への登記などで法定費用(実費)がかかります。
これは自分自身で手続きを行った場合でも必ず発生する最低限のコストです。
特に株式会社は、合同会社に比べて設立費用が高額になります。
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
登録免許税 | 最低15万円(資本金の0.7%) | 最低6万円(資本金の0.7%) |
定款用収入印紙代 | 4万円(電子定款の場合は0円) | 4万円(電子定款の場合は0円) |
定款の認証手数料 | 3万円~5万円 | 不要 |
定款の謄本手数料 | 約2,000円 | 不要 |
合計(紙定款の場合) | 約22万2,000円~ | 約10万円~ |
上記はあくまで最低限の法定費用です。
実際には、会社の印鑑作成費用や、手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は別途報酬が発生するため、総額はさらに膨らみます。
年間維持費(法人住民税や税理士顧問料)の発生
会社を設立すると、たとえ事業が赤字であっても毎年必ず支払わなければならない維持費が発生します。
これが個人事業主との大きな違いであり、最も注意すべき点の一つです。
代表的な維持費が、法人住民税の「均等割」です。
これは会社の利益に関わらず、資本金の額や従業員数に応じて課される税金で、事業所があるだけで最低でも年間約7万円の支払い義務が生じます。
また、法人の決算申告は個人事業主の確定申告よりも格段に複雑なため、多くの場合、税理士との顧問契約が必要になります。
税理士顧問料は月額数万円、決算時には別途10万円~20万円程度の費用がかかるのが一般的で、年間で見ると数十万円のコスト増となります。
廃業にも数十万円の費用がかかる現実
「事業がうまくいかなかったから会社を畳もう」と思っても、簡単に辞めることはできません。
会社の廃業(解散・清算)には、設立時と同様か、それ以上に時間と費用がかかるのが現実です。
具体的には、以下のような費用が発生します。
- 解散登記・清算人選任登記の登録免許税:合計4万1,000円
- 官報公告費用:約3万円~4万円
- 司法書士・税理士への依頼費用:数十万円
手続きが複雑なため専門家の力を借りることがほとんどで、総額で30万円以上の費用がかかるケースも珍しくありません。
「とりあえず作って、ダメなら辞めればいい」という安易な考えは非常に危険です。
手続き・事務面でのデメリット
法人化すると、お金の負担だけでなく、これまで経験したことのないような複雑な手続きや事務作業の義務が課せられます。
事業活動に集中したいのに、バックオフィス業務に忙殺されるという事態に陥る可能性があります。
複雑で手間のかかる法人登記手続き
個人事業主であれば税務署に「開業届」を1枚提出するだけで事業を始められますが、法人の場合はそうはいきません。
定款の作成、株式会社の場合は公証役場での定款認証、法務局への登記申請など、多くのステップを踏む必要があります。
書類に不備があれば何度も法務局へ足を運ぶことになり、事業開始までに多大な時間と労力を要します。
厳格な会計処理と決算申告の義務
法人は、個人事業主とは比較にならないほど厳格な会計ルールに従う必要があります。
日々の取引を複式簿記で正確に記帳し、年に一度の決算日には貸借対照表や損益計算書といった複雑な決算書類を作成し、法人税の申告を行わなければなりません。
これらの書類は税務調査の対象にもなりやすく、少しのミスが追徴課税などの大きなペナルティにつながるリスクがあります。
結果として、会計ソフトの導入や税理士への依頼がほぼ必須となり、管理コストが増大します。
社会保険の加入手続きと毎月の事務作業
法人を設立した場合、たとえ社長一人だけの会社であっても、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が法律で義務付けられています。
これは個人事業主(従業員5人未満の場合)にはない大きな義務です。役員報酬から天引きされる社会保険料は、会社と個人で折半して負担します。
国民健康保険や国民年金に比べて保障は手厚くなりますが、毎月の保険料負担は重くのしかかります。
さらに、毎月の給与計算、保険料の納付、年末調整といった事務作業も発生し、経営者の負担を増やす一因となります。
自由度に関するデメリット
「自分の会社」という響きとは裏腹に、法人化することで個人事業主時代にあった「自由」が失われる側面もあります。
特に、お金の扱いと働き方には大きな制約が生まれます。
会社の資産と個人の資産は明確に分ける必要がある
法人格を持つということは、会社と経営者個人は法律上「別人」として扱われることを意味します。
そのため、会社の売上や預金を、経営者が個人的な目的で自由に引き出して使うことはできません。
経営者が会社からお金を受け取るには、「役員報酬」という給与の形で、決められた日に決められた金額を受け取るのが原則です。
生活費が足りなくなったからといって、会社の口座から勝手にお金を引き出すことは「役員貸付金」となり、利息を計上する必要があるなど、税務上も非常に面倒な問題を引き起こします。
副業禁止の会社員は懲戒処分のリスクがある
現在会社員として働きながら、「とりあえず副業のために会社を作る」というケースは特に注意が必要です。
勤務先の就業規則で副業が禁止されている場合、個人事業主としての活動は見逃されても、法人設立は「事業経営」と見なされ、競業避止義務や職務専念義務への違反として、けん責、減給、最悪の場合は懲戒解雇といった重い処分の対象となるリスクが格段に高まります。
法人登記情報は誰でも閲覧できるため、会社に発覚する可能性は十分にあります。
安易な法人設立が、本業のキャリアを失う事態につながりかねないことを肝に銘じておくべきです。
会社設立の前に押さえておきたい基礎知識

「とりあえず会社を作ろう」と勢いで進めてしまう前に、知っておくべき基本的なルールや選択肢があります。
特に、会社の種類、資本金の額、設立までにかかる期間は、事業のスタートダッシュと将来の成長に大きく影響します。
この章では、後悔しない会社設立のために最低限押さえておきたい3つの基礎知識を、初心者の方にも分かりやすく解説します。
会社の種類 株式会社と合同会社の違い
現在、日本で新たに設立される会社のほとんどは「株式会社」か「合同会社」です。
どちらの形態を選ぶかによって、設立費用や運営方法、社会的信用度が異なります。
それぞれの特徴を理解し、ご自身の事業計画に合った形態を選択することが重要です。
まずは、両者の違いを比較表で確認しましょう。
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
設立費用(法定費用) | 約20万円~ | 約6万円~ |
意思決定機関 | 株主総会 | 社員総会(原則として全社員の同意) |
役員の任期 | 原則2年(最長10年まで伸長可) | 任期なし(定款で定めることは可能) |
出資者と経営者 | 分離可能(出資者=株主、経営者=取締役) | 原則として一致(出資者=業務執行社員) |
利益の配分 | 出資比率(株式の保有数)に応じて配当 | 定款で自由に決定可能 |
社会的信用度 | 高い | 株式会社に比べるとやや低い傾向 |
株式上場 | 可能 | 不可能 |
定款認証 | 必要(公証役場での認証) | 不要 |
将来的に外部から広く資金調達を行ったり、株式上場(IPO)を目指したりするなら「株式会社」が適しています。
社会的信用度も高いため、大手企業との取引や優秀な人材の採用においても有利に働く可能性があります。
一方、設立費用や運営コストを抑え、迅速な意思決定でスピーディーに事業を展開したい場合は「合同会社」が向いています。
個人事業主からの法人成り(法人化)や、家族経営、少人数でのビジネスに適した形態と言えるでしょう。
Apple JapanやGoogleなど、有名企業にも合同会社の形態をとる例があります。
資本金は1円でも大丈夫か?適切な金額とは
2006年の会社法施行により、法律上は資本金1円でも会社を設立できるようになりました。
しかし、「設立できる」ことと「事業を継続できる」ことは全く別の問題です。
資本金1円での設立には、実務上いくつかの大きなデメリットが存在します。
- 社会的信用の低下
資本金は会社の体力や規模を示す指標の一つです。資本金が極端に少ないと、取引先や金融機関から「経営基盤が弱い」「すぐに倒産するのではないか」と見なされ、契約や融資で不利になる可能性があります。 - 資金ショートのリスク
会社を設立すると、売上がなくても家賃や光熱費、社会保険料などの固定費が毎月発生します。資本金は当面の運転資金にもなるため、1円では事業が軌道に乗る前に資金が尽きてしまうリスクが非常に高くなります。 - 許認可の取得ができない
建設業や人材派遣業、古物商など、一部の事業を始めるには国や都道府県からの「許認可」が必要です。これらの許認可には、財産的基礎の要件として一定額以上の資本金が定められている場合があります。
では、資本金はいくらに設定すればよいのでしょうか。
明確な正解はありませんが、一つの目安として「設立後の運転資金3ヶ月分から6ヶ月分」を準備することが推奨されます。
例えば、毎月の固定費が30万円かかるなら、90万円から180万円程度が適切な資本金の目安となります。
また、日本政策金融公庫などの創業融資を検討している場合は、自己資金の額が審査に影響するため、それも考慮して金額を決定すると良いでしょう。
会社設立にかかる期間の目安
「会社を作ろう」と決意してから、実際にすべての手続きが完了するまでには、ある程度の時間が必要です。
手続きを自分で行うか、専門家(司法書士など)に依頼するかによっても期間は変動しますが、一般的な目安は以下の通りです。
株式会社の場合
株式会社の設立には、公証役場で「定款認証」という手続きが必要なため、合同会社よりも少し時間がかかります。
準備から登記完了まで、全体で2週間から1ヶ月程度を見ておくとよいでしょう。
- 準備期間(約1~2週間)
商号(会社名)、事業目的、本店所在地、役員構成、資本金額などの基本事項を決定し、会社の印鑑を作成します。並行して、会社の根本規則である「定款」を作成します。 - 定款認証(約1~3日)
作成した定款を公証役場に持ち込み、認証を受けます。 - 資本金の払込み(1日)
発起人(出資者)個人の銀行口座に、定められた資本金を振り込みます。 - 登記申請(約1週間~10日)
必要書類を揃え、法務局に設立登記の申請を行います。申請した日が会社の設立日となりますが、登記が完了して登記簿謄本(履歴事項全部証明書)が取得できるまでには1週間ほどかかります。
合同会社の場合
合同会社は株式会社と異なり、定款認証が不要です。
そのため、手続きがシンプルで、よりスピーディーに設立が可能です。全体で1週間から3週間程度が目安となります。
- 準備期間(約1週間)
株式会社と同様に、基本事項の決定、印鑑作成、定款作成を行います。 - 資本金の払込み(1日)
出資者(社員)の銀行口座に資本金を振り込みます。 - 登記申請(約1週間~10日)
法務局に設立登記の申請を行います。
これらの期間はあくまで目安です。書類に不備があった場合や、法務局が混雑している時期などは、さらに時間がかかる可能性も考慮しておきましょう。
専門家への相談は必要?税理士や司法書士に依頼するメリット

「とりあえず会社を作る」と考えたとき、設立手続きを自分で行うか、専門家に依頼するかは大きな分岐点です。
費用を抑えるために自力で挑戦する方もいますが、時間的コストや潜在的なリスクを考慮すると、専門家への相談は非常に有効な選択肢となります。
特に、事業のスタートダッシュに集中したい方や、法務・税務に関する知識に不安がある方にとっては、専門家のサポートが成功への近道となるでしょう。
この章では、会社設立を専門家に依頼する具体的なメリット、各専門家の役割、そして費用相場と賢い選び方について詳しく解説します。
会社設立を専門家に依頼する3つの大きなメリット
専門家に依頼することで、単に手続きを代行してもらう以上の恩恵を受けられます。
時間、正確性、そして将来性という3つの観点から、そのメリットを見ていきましょう。
メリット1:本業に集中できる!時間と手間の大幅な削減
会社設立には、定款の作成・認証、登記書類の準備、法務局への申請など、煩雑で時間のかかる作業が数多く存在します。
自分で一から調べて手続きを進めると、慣れない作業に戸惑い、数十時間以上を費やしてしまうケースも少なくありません。
専門家に依頼すれば、これらの手続きをすべて任せることができます。
起業家にとって最も貴重な資源である「時間」を、事業計画の策定、商品・サービスの開発、顧客開拓といった、本来注力すべきコア業務に投下できることは、計り知れないメリットと言えるでしょう。
メリット2:ミスなく確実!法務・税務の専門知識でリスク回避
会社設立の手続きには、会社法や税法などの専門的な知識が求められます。
例えば、定款の「事業目的」の記載が不十分だと、将来的に許認可が取得できなかったり、融資審査で不利になったりする可能性があります。
また、登記申請書類に不備があれば、法務局で何度も修正を求められ、設立日が大幅に遅れてしまうこともあります。
専門家は、最新の法律に基づき、あなたの事業内容に最適な形で書類を作成・申請してくれます。
許認可が必要な事業であればその要件を満たした定款を作成し、節税効果の高い役員報酬設定をアドバイスするなど、素人では気づきにくいポイントを網羅。
将来のトラブルを未然に防ぎ、スムーズな事業運営の土台を築くことができます。
メリット3:設立後も見据えたトータルサポート
会社設立はゴールではなく、スタートです。
設立後には、税務署への法人設立届出書の提出、社会保険の加入手続き、会計帳簿の作成、そして決算申告と、やるべきことが山積みです。
特に税理士に依頼した場合、設立手続きだけでなく、創業融資の相談、補助金・助成金の情報提供、効果的な節税対策のアドバイスなど、設立後の経営まで見据えた長期的なサポートが期待できます。
経営のパートナーとして伴走してくれる専門家の存在は、事業を軌道に乗せる上で非常に心強いものとなるでしょう。
【専門家別】誰に何を相談できる?税理士・司法書士・行政書士の役割分担
会社設立に関わる専門家には、主に司法書士、税理士、行政書士がいます。
それぞれに独占業務や得意分野があるため、自分の状況に合わせて相談先を選ぶことが重要です。
以下の表でそれぞれの役割を比較してみましょう。
専門家 | 主な役割と得意分野 | こんな人におすすめ |
---|---|---|
司法書士 | 会社設立登記のプロフェッショナル。 定款作成のサポートから法務局への登記申請代理まで、設立手続きの中心を担います。登記申請の代理は司法書士の独占業務です。 | ・とにかくミスなくスピーディーに会社を設立したい人 ・法務面での正確性を最も重視する人 |
税理士 | 税務と資金調達のプロフェッショナル。 設立時の税務署への届出、設立後の顧問契約、節税対策、融資・助成金の相談に強みがあります。設立手続き自体は提携の司法書士と連携して行います。 | ・設立後の税務顧問や節税相談もまとめて依頼したい人 ・創業融資や補助金の活用を考えている人 |
行政書士 | 許認可申請のプロフェッショナル。 建設業、飲食業、古物商など、事業を行うために行政の許可や認可が必要な場合に、その申請書類の作成・提出を代行します。定款作成も行えますが、登記申請はできません。 | ・許認可が必要な事業を始める人 ・許認可申請と設立準備を並行して進めたい人 |
最近では、これらの専門家が連携して会社設立をワンストップで支援するサービスも増えています。
まずは無料相談などを活用し、自分の事業内容や将来の展望を伝え、最適な専門家を見つけるのが良いでしょう。
専門家への依頼費用の相場と賢い選び方
専門家に依頼するとなると、気になるのが費用です。
ここでは、費用の内訳と相場、そして後悔しないための専門家の選び方について解説します。
依頼費用の内訳と相場観
専門家に支払う費用は、大きく「実費」と「専門家への手数料(報酬)」に分かれます。
- 実費:自分自身で設立しても必ずかかる費用です。
- 登録免許税:株式会社なら最低15万円、合同会社なら最低6万円
- 定款認証手数料(株式会社の場合):約5万円
- 定款に貼る収入印紙代:4万円(電子定款の場合は不要)
- 専門家への手数料(報酬):代行してもらうための費用です。
- 相場:5万円~15万円程度が一般的です。
一見、手数料分が高く感じるかもしれません。
しかし、多くの専門家は「電子定款」に対応しているため、自分で紙の定款を作成した場合にかかる収入印紙代4万円が不要になります。
そのため、実質的な負担額は数万円程度に収まるケースが多く、手間や時間を考えれば十分に価値のある投資と言えます。
また、税理士事務所などでは「会社設立手数料0円」を謳っている場合があります。
これは、設立後の税務顧問契約を条件に、設立手数料を無料にするというプランです。
設立後のサポートも必要と考えている方には、非常にお得な選択肢となるでしょう。
専門家選びで失敗しないための3つのチェックポイント
最後に、信頼できる専門家を選ぶためのポイントを3つご紹介します。
- 実績と専門性:会社設立の実績が豊富か、自分の事業分野(例:IT、飲食、建設など)に詳しいかを確認しましょう。事務所のウェブサイトで実績を確認したり、無料相談で具体的な事例を聞いてみたりするのがおすすめです。
- 料金体系の明確さ:どこまでのサービスが料金に含まれているのか、追加料金が発生するケースはあるのかを事前にしっかり確認しましょう。「設立手数料0円」のプランであれば、顧問契約の期間や料金も合わせて確認することが重要です。
- コミュニケーションのしやすさ(相性):会社設立後も長い付き合いになる可能性があるため、担当者との相性は非常に重要です。相談しやすい雰囲気か、質問に対して分かりやすく丁寧に答えてくれるかなど、無料相談の場で見極めましょう。レスポンスの速さも判断材料の一つです。
「とりあえず」の気持ちで会社を作る前に、一度専門家の視点からアドバイスをもらうことで、より確実でスムーズなスタートを切ることができます。
多くの事務所が無料相談を実施しているので、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
まとめ
「とりあえず会社を作る」という選択は、社会的信用や節税面で大きなメリットがある一方、設立・維持コストや煩雑な事務手続きといったデメリットも伴います。
事業の売上規模や将来の展望を考慮し、法人化の恩恵がコストを上回るかどうかが重要な判断基準となります。
安易な法人化は後悔に繋がる可能性もあるため、本記事で解説したメリット・デメリットを参考に、ご自身の状況に合わせて慎重に検討しましょう。
必要であれば税理士などの専門家への相談も有効です。